商圏分析のやり方を調べると、GISツールを使った分析手順や、公的統計データの活用方法を解説する記事が多く見つかります。こうした情報は分析そのものの技術としては有用ですが、実務で最初につまずくのは、多くの場合ツールの使い方以前の段階、つまり「何のために、どの範囲を対象に分析するのか」を決める部分です。本記事では、分析の技術的な手順よりも、目的設定と商圏設定という土台の部分を丁寧に整理します。
商圏分析を始める前に、最初に整理すべきなのが「何のために分析するのか」という目的です。目的があいまいなまま指標を集め始めると、後になって「この数字は何のために見ているのか」が分からなくなり、分析が迷走しがちです。
代表的な目的には、新規出店の検討、既存の顧客層の深掘り、販促を行うエリアの選定、競合との比較などがあります。目的によって見るべき指標の優先順位は変わります。たとえば新規出店の検討であれば世帯数や競合の状況が重視されますし、既存顧客の傾向を深掘りしたいのであれば、年齢構成や世帯構成といった属性面の指標が重要になります。販促エリアの選定が目的であれば、届けたい商材とエリアの特性がどれだけ合っているかという適合度の視点が中心になります。
分析から施策の実施・検証までの全体像は「商圏分析とエリアマーケティングの基礎」の5ステップであわせて整理しています。
目的が定まったら、次に決めるのが商圏の範囲です。商圏の決め方には、大きく分けて3つのパターンがあります。
| 決め方 | 内容 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 距離圏 | 拠点を中心に一定の距離(半径◯km等)で範囲を区切る | 業種を問わず基本的な設定として使いやすい | 道路事情や地形を考慮しないと実態とずれる場合がある |
| 時間圏 | 徒歩・自転車・車などでの移動時間で範囲を区切る | 実際の来店行動に近い範囲を捉えたい場合 | 交通手段によって範囲が大きく変わるため前提の整理が必要 |
| 実来店圏 | 既存顧客の居住地データなどから実際の来店範囲を把握する | 既存店舗があり、実績データが手元にある場合 | 新規出店など実績データがない場合には使えない |
(読み方: 既存の実績データがあるなら実来店圏がもっとも精度が高く、無い場合は時間圏、さらに簡便に検討したい場合は距離圏、という優先順位で考えると選びやすい表です。)
距離圏は、拠点を中心に一定の距離で機械的に範囲を区切る、もっとも簡便な方法です。業種を問わず使いやすい反面、実際の道路事情や地形(川・鉄道による分断など)を反映しないため、実態とのずれが生じることがあります。時間圏は、徒歩・自転車・車といった移動手段ごとの所要時間で範囲を区切る方法で、実際の来店行動に近い形で商圏を捉えられます。ただし、どの移動手段を前提にするかによって範囲が大きく変わるため、事前に整理しておく必要があります。実来店圏は、既に店舗を運営している場合に、実際の顧客の居住地データなどから商圏を逆算する方法で、もっとも実態に即した商圏設定が可能です。ただし新規出店など実績データが存在しない場合には使えません。
商圏の範囲が決まったら、その範囲内のデータを集めます。代表的な指標は、世帯数・年齢構成・持家率・平均年収・昼夜間人口比などです。これらの指標を単独で見るのではなく、目的に照らして組み合わせて読むことが重要です。たとえば「単身世帯率が高い」という事実だけでは判断材料として不十分で、「昼夜間人口比も高い」のであれば都心近接型の単身層、「昼夜間人口比が低い」のであれば郊外のベッドタウン型の単身層、というように、複数の指標を掛け合わせて初めてエリアの性格が具体的に見えてきます。
商圏分析に使えるデータには、民間企業が提供する有償のものだけでなく、国が公開している統計データを活用する方法もあります。人口や世帯構成に関する公的な統計は無料で公開されており、自分でエリアの概況を把握する入り口として活用されています。ただし、こうした公的データは調査の粒度や更新頻度が施策の検討には十分とは言えない場合があり、より実務に近い形で使いたい場合は、事業者が独自に整備した商圏データを参照する方が効率的なこともあります。当社が公開しているエリアページの商圏データも、そうした選択肢のひとつとしてご活用いただけます。
商圏分析は、データを集めて終わりではありません。得られたエリアの特性をもとに、どの販促施策がそのエリアに合っているかを検討する段階まで進めて初めて、分析が意味を持ちます。
目的を決め、商圏の範囲を定め、指標を組み合わせて読む。この3つの手順を丁寧に踏むことが、遠回りに見えて商圏分析をもっとも確実に進める方法です。
この施策選定の考え方については「エリアマーケティングの手法」で詳しく整理しています。また、市区町村単位で把握した特性を、実際の案件でさらに細かい単位に落とし込んでいく考え方は「市区町村単位のデータから町丁目へ」で紹介しています。
まず「何のために分析するのか」という目的を明確にすることから始めます。目的があいまいなまま指標を集め始めると、後で数字の意味が分からなくなりがちです。
距離圏・時間圏・実来店圏という3つの決め方があります。既存の実績データがあれば実来店圏、なければ時間圏や距離圏を目的に応じて選ぶとよいでしょう。
国が公開している人口・世帯構成の統計データを入り口として活用することは可能です。ただし粒度や更新頻度が実務に十分でない場合もあり、より実務向けの商圏データと組み合わせて使われることもあります。