エリアマーケティングの「手法」というと、特定のテクニックやツールを思い浮かべるかもしれません。しかし実務上もっとも重要なのは、個別のテクニックよりも「どのターゲットに、どの施策を、どう組み合わせるか」という選び方の技術です。同じエリアであっても、ターゲットが世帯なのか個人なのか、あるいは事業所なのかによって、有効な施策の組み合わせは大きく変わります。本記事では、ターゲットの類型ごとに施策の相性を整理し、組み合わせ方の考え方を紹介します。
エリアマーケティングで検討する施策は多岐にわたりますが、ターゲットを大きく4つの類型に分けて考えると整理しやすくなります。世帯向け(家庭単位での利用を想定する商材)、個人向け(若年層・単身層など個人の消費行動を想定する商材)、富裕層向け(高所得層・資産運用層を対象とする商材)、事業所向け(法人・オフィス・店舗を対象とする商材)の4つです。
世帯向けの商材であれば、住宅への配布が中心になり、持家率や世帯構成といった指標が重要になります。個人向けの商材であれば、駅前や繁華街など人の集まる場所での接触や、位置情報を活用したデジタル施策との相性がよくなります。富裕層向けの商材であれば、所得水準や資産運用への関心度合いを踏まえたセグメント設計が必要になります。事業所向けの商材であれば、住宅ではなくオフィスや店舗そのものへのアプローチが中心になります。
施策選びでよくあるつまずきは、ターゲットの見極めより先に「やってみたい施策」が決まってしまっているケースです。たとえば話題性のある施策から検討を始めてしまうと、実際のターゲットとの相性が後回しになり、狙った層に届きにくい設計になることがあります。逆に、自社の商材が4類型のどれに近いかを先に整理しておくと、候補となる施策が自然に絞り込まれ、比較検討がしやすくなります。複数の類型にまたがる商材(例えば世帯にも個人にも訴求したい場合)は、類型ごとに施策を分けて設計するという考え方も有効です。
指標とエリアの読み解き方の基本は「商圏分析とエリアマーケティングの基礎」で整理しています。
ターゲットの類型ごとに、相性のよい施策を整理すると以下の表のようになります。
| ターゲット | 相性のよい施策 | 見るとよい指標 |
|---|---|---|
| 世帯向け | ポスティング、新聞折込 | 世帯数、持家率、年齢構成 |
| 個人向け(若年層・単身層) | 街頭配布・サンプリング、ジオターゲティング | 単身世帯率、昼夜間人口比 |
| 富裕層向け | プレミアムセグメントDM、ダイレクトメール | 平均年収、持家率 |
| 事業所向け | オフィスポスダイレクト、エコ配手渡し | 昼夜間人口比、事業所の集積状況 |
世帯向けの施策では、住宅密度や持家率が重要な判断材料になります。個人向けの施策では、単身層の比率や日中人口の動きが手がかりになります。富裕層向けの施策では、所得水準に加えて定住性(持家率)も参考になります。事業所向けの施策では、オフィス街としての性格を表す昼夜間人口比が重要な指標です。
エリアマーケティングでは、ひとつの施策だけに絞り込むよりも、複数の施策を組み合わせて設計するケースが多く見られます。たとえば世帯向けの商材であっても、ポスティングだけでなく新聞折込を組み合わせることで、より幅広い年齢層への接触が可能になります。個人向けの商材であれば、街頭でのサンプリングと、位置情報を活用したデジタル施策を組み合わせることで、リアルとデジタルの両方から同じ層にアプローチする設計も考えられます。
このように施策を組み合わせる際は、それぞれの施策が「誰に」「どのタイミングで」届くのかを整理し、重複や漏れがないように設計することが重要です。同じエリアの同じ層に同じメッセージを繰り返し届けることで認知が定着しやすくなる一方、まったく異なる層に別々の施策を展開する場合は、それぞれの施策の特性に応じたメッセージの作り分けが必要になります。
施策を選ぶ際、ターゲットとの相性だけでなく、実務上の判断軸もいくつかあります。ひとつは対応エリアです。施策によって対応可能なエリアの範囲は異なるため、まず自社が展開したいエリアで利用できる施策かどうかを確認する必要があります。もうひとつは、単発で行うか、継続的に行うかという時間軸です。認知形成を目的とする場合は継続的な展開が前提になりやすく、逆に特定のキャンペーンへの誘導であれば、期間を絞った集中的な展開が向いています。
対応エリアと時間軸に加えて、複数の施策を検討する場合は予算の配分方針も判断軸になります。一つの施策に集中させて特定エリア・特定層への接触頻度を高める考え方もあれば、複数の施策に分散させて認知の入り口を増やす考え方もあり、どちらが適するかは商材の性質やこれまでの施策実績によって変わります。初めて複数施策を組み合わせる場合は、まず小さい規模で試し、反応の出方を見ながら配分を調整していく進め方が無理のない方法です。
エリアマーケティングの手法を考えるうえで大切なのは、個別のテクニックを覚えることよりも、自社のターゲットがどの類型に近いかを見極め、相性のよい施策の候補を絞り込むという順序です。そのうえで、単独の施策に頼るのではなく、複数の施策を組み合わせることで、より広い層に、より効果的にアプローチできる設計を目指すことができます。
実際にご相談いただく際は、商材の概要・想定しているターゲット層・展開したいエリアの3点を整理しておいていただくと、相性のよい施策の候補や組み合わせ方について、より具体的にお話ができます。
ターゲットの特性を具体的に把握するための商圏分析のやり方については「商圏分析のやり方」で、市区町村単位のデータをより細かい単位の検討につなげる考え方については「市区町村単位のデータから町丁目へ」で、それぞれ紹介しています。位置情報を使うデジタル広告と紙の施策の使い分けは、地域に絞って広告を出す方法で扱っています。
まず自社のターゲットが世帯向け・個人向け・富裕層向け・事業所向けのどの類型に近いかを確認し、それぞれと相性のよい施策の候補を絞り込む、という順序で検討するとよいでしょう。
単独の施策よりも、複数の施策を組み合わせることで、より幅広い層にアプローチできることが多くあります。ただし重複や漏れがないよう、誰にいつ届くのかを整理したうえで設計することが重要です。
ターゲットの類型によって重視する指標が変わります。世帯向けであれば世帯数や持家率、個人向けであれば単身世帯率や昼夜間人口比、富裕層向けであれば平均年収などが手がかりになります。